テレホンセックスのおかげで寂しい夜はもう訪れない

テレホンセックスのおかげで寂しい夜はもう訪れない

テレホンセックスのおかげで寂しい夜はもうない

もともとオナニーをするのがセックス以上に大好き。それから、オナニーを見てもらうのも好きですし、もちろんオナニーを見るのも好きときていますから、そんな私がテレホンセックスにハマるというのは当然の流れであったといえるでしょう。

とはいえ、テレホンセックスにおいては、実際にはオナニーを見てもらうことも見せることもできません。「私は、いま、オナニーをしている」ということを、受話器越しに声と言葉で伝えあうことができるのみです。

声と言葉だけでオナニーの状況を伝えあうというテレホンセックスは、実際に目の前でオナニーをしたりされたりする、あるいは、自分ひとりでオナニーをするのとはまるで違います。

テレフォンセックスにおいて求められるのはオナニーの客観視です。オナニーしている自分と同時に、そのオナニーを見据えている自分がいなければ成立しないのが、テレホンセックスです。

一人でするオナニーの場合、自分のオナニーを冷静に見つめながらする必要はまったくありません。というより、ただただオナニーに集中し、オナニーという時間のなかに没頭してそれ以外のことは何も考えないというのがオナニーの基本ですよね。

肉体をさらけだして行われるオナニー鑑賞においては、「オナニーを見つめる人」がいます。この「オナニーを見つめる人の眼」があることによってオナニーの快楽が一人でするとき以上に高まっていくというのは、オナニー鑑賞の最大の特徴であるといえるでしょう。他者がいるオナニーはパフォーマンスの要素が加わります。

テレホンセックスにおいては、オナニーとの関わり方がより複雑に絡み合った状態になります。「オナニーを見つめる眼を持つ自分」と、「オナニーを言葉にする自分」、それから「言葉にされたオナニーを聴く他人」が混じりあい、そのすべての役割を担当することになるのがテレホンセックスです。

テレホンセックスは、基本的に相互でオナニーしあうことを擬似セックスのようにしていくことで成立するのですが、これはもはやオナニーとはいえず、かといって、セックスでもありません。それはテレホンセックスと呼ぶしかない何かなのです。

テレホンセックスは独自の性行為です。このテレホンセックスとしかいいようがない性行為のなかにオナニーが置かれるとき、オナニーはその質感を変貌させ、別種の快楽的な性行為として遂行されることになるのではないでしょうか。

テレホンセックスという特殊な性行為と出会い、テレホンセックスに耽溺するということは、実際に肉体と肉体を接触させることでするセックスというものに対して抱いていた違和感、「セックスってそんなに好きではないな」という感覚と繋がっているようにも思います。

「ムラムラしているからちょっと風俗にいくか」という選択肢は、いまの私には存在していません。私のスマートフォンは、おそらく、風俗店に予約をいれるために使われることは二度とないでしょう。私のスマートフォンは、すっかり、テレホンセックスをプレイするための専用の道具と化しました。

テレクラにコールをすると、ここではないどこかに住んでいる名前も顔も知らない女性の声が聞こえてくる。私は、その女性に自分のオナニーのことを伝えるのだし、その女性が私に対してオナニーのことを教えてくれることもある。ふたつの声と言葉と化した自慰行為が絡みあい、欲情しあう。

テレホンセックスをしているとき、声と言葉だけが幽霊みたいに離脱して、電話回線をかけぬける。私とテレクラ女性は、回線上で幽霊になったまま幽霊としてまぐわっていて、その幽霊の本体である肉体は、それぞれの個室で幽霊同士の絡みあいを感じながら性器をいじりつづけています。

セックスというのは、私にとってはあまりに肉体的すぎるのかもしれません。私は、自分という存在を自分の声というもっとも肉体的なもので幽霊化したいのかもしれません。そしてまた、声だけになって耳元に届く、幽霊化した女性というものを、彼女の本体である肉体以上に強く愛したいのだろうとも思います。

オナニーは一人でするもの。だけれども、テレホンセックスという場所において、オナニーは一人だけでするものではなくなります。私と私の幽霊と、テレクラ女性とテレクラ女性の幽霊と。すくなくとも、オナニーは四人にわかれてする性行為に変貌します。

オナニーだけで済ますにはちょっとさみしすぎる。だけど、セックスをすると生々しい。テレホンセックスというオナニー幽霊同士のまぐわいならば、私も完全な孤立からはまぬがれつつ、孤独でいられるのではないか。

テレホンセックスを体験するようになってから私が愛しているのは、他者がいるゆえに感じられるこのあたたかな私だけの孤独なのかもしれません。オナニーをする幽霊になって電話回線の闇夜を歩けたならば、さみしい夜はもう決して訪れないのではないでしょうか。

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